始末に困る人

ちょっと仕切り直してみました

Y染色体の特異性と遺伝子がもたらす男女の性差の謎【男女の遺伝学シリーズ】

 【私たちに父親が必要なわけ】

 ヒトの細胞内で機能する遺伝子は一方の染色体上に対立遺伝子を持つが、父親由来 (paternal) あるいは母親由来 (maternal) のどちらが発現するかはランダムに決定されているらしい。

 つまり、ヒトの遺伝子(約2-3万と推定されている)はそれぞれ両親から受け継いでいるが、通常はメンデルの法則に従って優性形質が表現型となって現れるため、父親由来でも母親由来でもその遺伝子の機能発現には影響しない。

 しかし、近年になってゲノムインプリンティングという現象が明らかとなった。これはメンデルの優劣の法則に拠らない遺伝子発現メカニズムであり、paternal gene あるいは maternal gene のどちらが発現するかが厳密に制御されているらしい。

 これが哺乳類が有性生殖でしか子孫を残せない大きな理由であると言われている。仮に哺乳類のメスが単為生殖を行ったとしても、その子(娘)は  paternal gene を発現させることができないため正常に生育することができない。全ての遺伝子を正常に発現させるにはオスとメスが両方必要なのである。

 

【双子の姉妹が似ないのはなぜか】

 ヒトの性染色体はX染色体およびY染色体である。X染色体を持つ精子が受精すれば子は女児(XX)、Y染色体を持つ精子が受精すれば子は男児(XY)になる。

 常染色体22組44本および性染色体のXY(あるいはXX)染色体はそれぞれが父母由来のペアとして存在し、それぞれの遺伝子が機能する。しかし、Y染色体はX染色体に比べると非常に小さく遺伝子数も少ない(Xが約1000遺伝子に対してYは約50遺伝子)。単純計算すると、XXの女児では2000遺伝子あるのに対し、XYの男児では1050遺伝子になってしまう。

 これでは不公平だと考えたのか、生物は片方のX染色体を不活化する戦略をとった。女性の全ての細胞において、二本あるX染色体のうち一本は不活化されているのだ。これで男性のXYとバランスをとっているらしい。

 ここで面白いのは、X染色体の不活化はモザイク状に起こるという点である。細胞ごとに父母どちら由来のX染色体が不活化されるかはランダムに決まるのだ。一方で、男性のX染色体はどの細胞であっても必ず母親由来である。

 一つ面白い実験がある。一卵性双生児の男児あるいは女児を調べたところ、社会的能力や言語能力など、男児の双子は非常に類似していたのに対し、女児の双子は差が大きかったという(1)。

 興味深いことにX染色体上には脳の機能を担うものなど重要な遺伝子が多数存在することが判明している。全ての細胞で等しく母親由来のX染色体を持つ男児に対して、女児のX染色体は細胞ごとに父母どちらのX染色体であるかが異なり、これが女性の社会的能力などに広く影響を与えている可能性もある。

 

(1) Caroline S. Loat, Kathryn Asbury, Michael J. Galsworthy, Robert Plomin, and Ian W. Craig. X inactivation as a source of behavioural differences in monozygotic female twins. Twin Res. (2004) 7: 54-61.

 

【男らしさを決めるもの:Y染色体

 X染色体は約160Mbと大きさも遺伝子数も常染色体とそれほど変わらず(第7-8染色体と同じくらい)、重要な遺伝子の存在も明らかになっている(例えば血友病の原因遺伝子がX染色体上にあるのは有名)。一方で、Y染色体の遺伝子数はわずか50(!)。報告によって差はあるものの50から100といったところか。

 しかしY染色体にある遺伝子はほとんどが男性にとって必須の遺伝子である。妊娠約8周目の時期の胎児において、男児となる XY個体ではY染色体由来のSRY遺伝子が働き、生殖腺が精巣へ分化する。形成された精巣からはアンドロゲンが分泌されさらに男性化が進む。このときY染色体を持たないXX個体は SRY遺伝子が発現しないため、生殖腺は卵巣へと分化する。つまりY染色体を持たない個体(あるいはSRYに変異を持つなど二次的要因のある個体)は生殖腺を精巣へ分化させることができず、結果として卵巣を持つ女児になる。これが生物の基礎はメスであることの所以。

 また、男性不妊の原因となる無精子症や乏精子症も、Y染色体のAZFと呼ばれる領域の欠失が発症に関わることが明らかとなっている。Y染色体に存在する遺伝子は少数だが、胎児を男児へと誘導するシグナル、また生まれてからも精巣の機能維持や精子産生に重要な役割を果たしており、男性が男らしくあるために必須なものなのだ。

 

他にも

Y染色体はX染色体とわずかな領域しか対合できないため組換えがほとんど起こらないが、パリンドローム配列を利用してY染色体それ自身で組換えを起こしている

・およそ3分の2がヘテロクロマチン構造で、リピート配列を多数含む(変異がチェックポイントを抜けて遺伝しやすい)

 

などY染色体にはまだ未解明の謎が多く、これからの研究が期待される分野だと思います。構造的に解析が難しいとはいえ、解明がなかなか進まないのはやっぱりデリケートな分野だからなんですかね?

 

 

簡単に調べてみて。

私が興味があるのは、このY染色体の持つ特異性と男女の性差について。なぜ生物が性差(メス→オス化)を必要としたのか。

なぜ男と女を組み合わせて子孫を誕生させるという道を選んだのか?

 

これについては「子孫に多様性を生み出し、環境に適応させるため」というのが通説です。私もこれが概ね正しいとは思います。確かにオスになって精子に自身のDNAを運ばせれば、他種のメスに受精させることによって子孫を残すことができます。

 

しかしこれだと生殖に非常に労力がかかるし(わざわざハプロイドの生殖細胞を作る必要があるし、パートナーを探す手間もある)、また自分の遺伝子は半分になってしまいます。それを容認してでも獲得したい形質が他種にあったということなのだろうか、と考えてしまいます。

そこまでして獲得、進化しなければならないのはなぜだったのか?

 

このあたりは妄想の域を出ませんが、考えるだけでも面白いですね。古事記の内容と合わせて考えるとまた興味深いものがあります。

 

 

※内容について

ところどころ正確性に欠ける箇所もあると思います。論文などの引用元も全部は書いていません(めんどくさいので)。論文ではなく私の単なる趣味なので、そのあたりはご容赦ください。

 

では今日はこんなところで。